「すべての生きものは、生を享けてから死ぬまで飲み食いの
生活を避けて通るわけにはいかない。」
金子信雄著「口八丁手包丁」は
私の愛読書。
金子信雄と聞いても「?」
昔の役者さんでご存知ない方も多いと思いますが、
脇で名がつく個性的な役者。現れるといっきに
空気がかわる、、、稀有な方でした。
その個性は私生活でも十二分に発揮。
こと「食」に関してのこだわりは、
料理番組を持つほどの実力でもありました。
この「口八丁手包丁」は金子信雄のひととなりがにじみ出た一冊。
読みすすみますと、一緒に市場をまわり、
料理屋さんで並んで座って、お酒を飲みながら舌鼓を打つような
友人の気分になります。
月ごとに旬のもの。この時期に食べるべきものや歳時が並べられているので、
まるで暦をめくるように、月が替わるとその章に目を通すという楽しみも。
読むごとに新しい発見もあります。
そしてこの本読む前に、必ず目を通すのが本の帯。
普通、この帯部分には作者と親しい方や書評家の推薦文が
載っているものですが、
さすが、ひとくせふたくせあたりまえの本です。ちょっと違う。
ここには金子信雄の長年の友人の、これまた氏に勝るとも、、な
俳優 殿山泰司!の寄せ書きにも似た、親友との関係が書かれているんです。
これが傑作!!!
抜粋するのがもったいないくらい、なので全文掲載します。
「オレも世間さまからは、おかしな役者、だと思われてるけど、
金子信雄ときたら、湯島や千住や蛸薬師や祇園の、
それほど有名ではないタベモノ屋にオレを連行し、
食え食えッうまいだろうこの店はッ!!
と叫んだり、オレの家へ材料まで持参で乗り込み、
バタバタとコールド・ビーフなんかを作り、
食え食えッどうだァうまいだろうッ!!と叫んだり、
だから、食通というか料理人というか、
おかしな役者、の前でオレは友情の火花を散らしながら、
うまいぞおッ!!と叫ぶことになっとる。」 殿山泰司
ふたりの可笑しくも愉快なやりとりが目に浮かぶ、すんばらしい〜文言に
私はちょっとヤキモチさえ覚えるんです。いいなぁーいいなぁー
相手のことを面白がって大好きだからでる言葉。
殿山泰司の反応を、私もきっとおんなじにしてしまうと思います。
美味しい食、愉しく食べるには、
こういう人間関係も大事な一味なんだとも感じさせてくれる
「口八丁手包丁」は、どこから読んでも気のおけない一冊です。