日本士道記


「日本士道記」山本周五郎

タイトルが示す通り、武士の心構えや

その生きざまを何篇かの小説にて開示しています。

装丁が重厚で雰囲気ある一冊。

出会いは高倉健さんの追悼インタビューを読んでから。

インタビューの中で健さんはこの本の中の一編を選んで

紹介します。

ある城攻めで斥候として、夜陰に忍んで

堀を渡り城の門を開ける任務に就いたひとりの武士が

主人公の話です。

彼は普段から抜けていて、みんなに

からかわれるような存在。

その彼が斥候に選ばれ

数人の仲間と堀を渡るもあえなく滑落。ドボーンという

大きい音に城の見張りが川面に明かりをあて、周囲を探しますが

這い上がる姿はなく、捜索をあきらめます。

おかげで無事に城の門を開けることができ、数時間のちに

落城となるのですが、平定して興奮が収まると

あの‘‘抜け作’’の行方の話になります。いったいどこに消えたんだ?

城の片づけをし堀の水を抜いた時、一同驚きます。

それは水の底で、大きい石をがっちりと抱きながら事切れている

抜け作の姿が現れたからです。

そう、滑落して水面に上がればこの方策は失敗となり、

仲間も見つかり皆打ち取られることは確実。

ならば

石を抱いて自分の犠牲のもとに、事を遂げようという気概に

皆、武士の心根ぞと感嘆するという話です。健さんはいたく感動して、

武士道の奥深さと、覚悟に心酔したとのこと。

あの表情や役作り、そしてプライベートの健さん

ここに、この本にあるのかなぁとも思いました。

自らを律し、主君に殉ずる士道の世界は、あまりに厳しく

遊興に浴する町人風情な私には、絶対無理な生き方です。

そうそう、最近大河がつまらなく感じるのは

士道を全然理解していないスタッフと役者ばかりなのかなぁとも。

いかめしい顔とアクション映画さながらの大芝居だけじゃー

武家の誇りと喜びと悲しみは伝わってこない。

時代劇をやる役者にはぜひ読んで芝居に挑んで欲しいです。